2017/11/4, 11/5 Othello (東京芸術劇場プレイハウス / Toneelgroep Amsterdam)
演出 Ivo Van Hove 美術 Jan Versweyveld 翻訳 Hafid Bouazza
出演 Aus Greidanus jr., Halina Reijn, Hans Kesting, Harm Duco Schu, Hélène Devos, Robert de Hoog, Anne-Chris Schulting, Roeland Fernhout
Toneelgroep Amsterdam Othello
白人が演じるオセロー
ロンドンで見たトネールグループ・アムステルダムによるThe Kings of Warをいたく気に入ったので、来日公演は気合いを入れて2度鑑賞。ホーヴェが芸術監督に着任して最初に演出したシェイクスピア作品がこのオセローで、アラビア系のルーツがあることを強調するような翻訳台本を新たに制作したそうだ。初演の2003年から、オセローは看板役者のハンス・ケスティング、イアーゴはルーラント・フェルンハウトが演じている。
オランダ語がわからず、日本語字幕も字数が足りない印象だったので、この新しい翻訳の味がよくわからなかったのはとても残念だった。せっかくの機会に、なぜわざわざこの作品を招聘したのか疑問である。
オセローはイヴォ・ヴァン・ホーヴェとトネールグループ・アムステルダムの初期作品だが、後の演出作品でも見るような手法がいくつも確認できる。音楽をガンガン鳴らして台詞なしのフィジカルな画で畳み掛ける、フィナーレシーンのためにセットがズズズっと移動する、役者の動と静のコントラストなどである。さすがにビデオ中継はなかった。美術はこれもヤン・ヴェルスヴェイヴェルト(こう聞こえるのだが合っているだろうか)らしい、全体的にシャープだが日常的な家具でバランスをとるようなデザイン。ミニマル気味の美術なのでツアー向きか。字幕が表示される画面の色が場面に合わせて変わるのだが、そこまで気を使っているのかと感心した。
オセロー役に白人のハンス・ケスティングをあてていることによる効果が興味深かった。ケスティングは背が高く強面なので、そういう点ではオセローのイメージにはぴったりなように思われる。ムーア人であるオセローは、地位もあるし平常であれば尊敬されている。舞台上にいる俳優は全員白人なので、いっとき、舞台上の世界の人種差別を忘れそうになる。(この劇団は白人の俳優ばっかりなのでそれもどうかと思うが、事情に詳しくないのでここでは触れないことにする。)
それが最終幕で急に、オセローは蔑むべき有色人になる。嫉妬にかられて殺人を犯したのでもちろん彼は大犯罪者なのであるが、デズデモーナを殺害したことを知ると、動転したエミリアはオセローを名前で呼ばず「ムーア人が奥様を殺した!」と発言するのだ。直前までは礼儀正しい態度で(英語であれば)my good lordと言っていたのに、次にはthe moorと人種差別的発言を大声で発する。
この発言の暴力性が私にはかなりショックであった。俳優であるケスティングが白人であるからこそ、「ムーア人」呼ばわりすることの暴力性が際立って感じられた。劇の前半では全員が親しげにしているように見えたのに、内心は「しかしオセローはムーア人だ」ということを乗り越えてはいなかったのだ、と気がつかされた。
しかも、私は鑑賞中に人種差別をうっかり忘れてしまっていたし、他のプロダクションの黒人俳優のオセローに対する「ムーア人」発言にはそこまでショックを受けていなかったのだということにも気が付いた。どこか、舞台上の差別を受け流して鑑賞していたということだろうか。
白人のオセローについては賛否あったようだが、このエミリアのシーンだけでも、上演する価値のあるプロダクションだと私には感じられた。
他には、2度見た際に、演技に色々な違いがあることが面白く思えた。2日目のほうがイアーゴがメソメソしていたり、慟哭するオセローのデズデモーナの抱きかかえ方が違ったりするのだ。何が要因かはわからないが、特にオセローとイアーゴは私が鑑賞した2回では演技を変えてきており、こんなに何度もやっているはずの舞台でも変わる要素があるということに驚いた。