まとまった記事にできていなかったもののメモです。
最近見た舞台配信:Flowers for Mrs Harris, By Jeeves, 1984, 12人の優しい日本人, トゥーランドット
Flowers for Mrs Harris
チチェスター・フェスティバル・シアターによるミュージカルの配信を視聴(現在は配信終了)。原作は、ポール・ギャリコ『ハリスおばさんパリへ行く』。
特に前半が好みだった。世にも美しいドレスへの憧憬、親友との喧嘩と仲直り、徐々に変わっていく雇い主たちなどが好ましい音楽で紡がれていく。夫のことが明かされ、時計を泣きながら売り払ったあたりから、飛行機に乗るまでのどんどんたたみかけていく展開の勢いが良い。前半ラストで主人公が物理的にもタラップをどんどんのぼっていき、頂上にたどり着いたところで前半が終了するのもばっちりはまっている。
後半に再び新しいキャラクターが紹介され、彼らがハリスおばさんの優しさに触れ、急激に変わっていく過程が描かれるのは、ややファンタジー過ぎる気も。ただし、ドレスの最後、夫との別れのところはほろ苦く切なく、バランスは取れている。
クレア・バートが演じるハリスおばさんの、優しさ、善良さ、誠実さ、茶目っ気、好ましさが光る。
By Jeeves
アンドリュー・ロイド・ウェバー作品の配信Show Must Go Onで視聴(現在は配信終了)。原作は、P. G.ウッドハウスのジーヴスシリーズ。
これはミュージカルのテレビ・ビデオ用にスタジオで撮影したもの。本編に入る前とインターバルでは、カメラが観客の目線で劇場をうろつく様子を撮影しているのが面白い。バーティがコンサートを開くはずが楽器が無くなり、場つなぎのため最近の面白かった出来事を演じるという趣向で、本人が本人役、その場に居合わせた人たちも登壇して劇中劇を演じる。ジーヴスはポーカーフェイスでバーティの手助けをする。
これは元の小説の世界を愛している身としては、バーティとジーヴスの世界が再現されていて楽しいのだが、ミュージカルプロダクションとしては、ややのんびりしすぎかもしれない。音楽も雰囲気は良いが、テーマソングは思い出せない、といった具合でちょっとパンチが弱い印象。
以前見たJeeves and Wooster in Perfect Nonsense (David Goodale and Robert Goodale, 2013)はストレートプレイだが、By Jeevesをもっとブラッシュアップしたような舞台だったことがわかる。これも劇中劇の手法をとってウッドハウスの小説を舞台化している。バーティがバーティ役を演じている点、最後にみんなでダンスして終わるあたりが共通していて、このミュージカルを参考にしていそう。元の小説そのままだとジーヴスの出番の尺があまりないのだが、劇中劇にすれば、話の中と劇の進行両方で、ジーヴスの活躍を描くことができるという利点があるのかもしれない。
このJeeves and Wooster~ではジーヴスが出ずっぱりで大活躍していて、それが見物になっている。出演者は3人で、バーティはずっと劇中のバーティ役をやるのみ、そしてジーヴスはもう1人の執事の助けを借りつつ、バーティの尻拭いで劇中のその他大勢を全て演じながら小道具や大道具を用意し、劇を滞りなく進めるという大仕事をしている。
1984
ノーザン・バレエの配信を視聴(無料配信終了。現在はDVD販売とMarqueeTVで視聴可能)。
言葉がないバレエは普段は見慣れないのだが、これは『1984』を知っているうえで見ると、とても明快な舞台装置と振り付けで、大変分かりやすかった。舞台デザイン、衣装と振り付けの雰囲気も含め、全体的にシャープで格好がよい。ラストシーンも原作のまま再現するのではなく、「アンパーソン」の行為を象徴的に表現しているが、「象徴的で詩的」と「具体的な分かりやすさ」とのバランスが良かった。
12人の優しい日本人
12人の優しい日本人を読む会によるZoom生配信を視聴(5月いっぱいホームページで視聴可能)。
元の舞台も映画も見ていないが、とても楽しく見た。日本人の議論の下手さ、協力しない参加者がいる場合の話し合いの空転ぶりの表現がとてもうまい。しかし、議論がちゃんと議論の形になり票が動くというドラマ展開も面白い。
本編配信前に、呼びかけ人の近藤芳正が生配信であることや準備不足にことわりを入れたが、作家の三谷幸喜が「そんなことではいけない」と入ってくることで、視聴者側でも「生配信だ」「うまくやり遂げないといけないのだ」という意識が共有でき、集中力が高まったのが良かったと思う。ちょっとハラハラするところも、白けずに一緒にハラハラして見れたのではないだろうか。
また、普段海外の配信をよく見ているとめったに配信時の同時視聴ができないが、今回は、多くの人とオンラインで感想を語り合いながら同時に見れたのもよかった。
トゥーランドット
新国立劇場を配信を視聴(現在は配信終了)。
これも元のオペラをよく知らないまま、新演出を見ることになったが、とても良かった。女が男に虐げられてきた歴史が再現される物語として新たに解釈された演出で、これを見てしまうとオリジナルのオチに全く納得がいかなくなってしまう。
装置がとにかく豪華で、直線を多用したデザインは格好が良い。スターウォーズの基地みたいだし、トゥーランドットのミニマルだが強調されたヘッドピースなどの衣装も、徐々にそれっぽく見えてきた。
カラフ役の俳優がものすごく声が響いていて良かったのだけど、せっかくカラフ役だと思ったら嫌われるような演出でガッカリしただろうか…としょうもないことを考えてしまった。