以下は、2017年5月11日に『海外観劇日記』に投稿したものの転載です。ブログ内容をこちらに徐々に移行しています。
当時の私が、劇の「分からなさ」をクラシック音楽と並べて書いているけれど、私はいくつかの交響曲は、「分かる〜!」と思って聴いているわけです(チャイコフスキーの5、6番とか、ブラームス1番とか、ドヴォルザーク9番とか、未完成とか)。
Travesties (Menier Chocolate Factory)
27/September/2016
19/November/2016 *千秋楽
先日クラシック音楽のコンサートでブルックナーの交響曲第1番を聴いたときに、Travestiesを鑑賞した体験を思い出した。
私の中でどこに共通点があるのか考えてみたのだが、
◯モチーフを重ねて展開していくその展開の面白さと美しさ
◯ハーモニー(言語)の耳触りが良いこと
◯しかし必ずしもモチーフを理解しきれていないこと
が挙げられるのかもしれないなと思った。
Travestiesはトム・ストッパードによる1974年初演の芝居である。
第一次世界大戦中のチューリッヒ、モダニズム作家ジェームズ・ジョイス、革命家レーニン、ダダイズムの提唱者トリスタン・ツァラがいた時代をイギリス人ヘンリー・カーが回顧する。プロットにはオスカー・ワイルドの『真面目が肝心』をモチーフに取っている。
2016年のMenier Chocolate Factoryでのリバイバル公演は開演前にチケットは完売し、2017年春にアポロ劇場にトランスファーした。
クレジット
作: Tom Stoppard
演出:Patrick Marber
美術:Tim Hatley
照明:Neil Austin
サウンドデザイン・作曲:Adam Cork
出演
Henry Carr – Tom Hollander
Gwendolen Carr – Amy Morgan
Tristan Tzara – Freddie Fox
Cecily Carruthers – Clare Foster
Vladimir Lenin – Forbes Masson
James Joyce – Peter McDonald
Nadya – Sarah Quist
Bennett – Tim Wallers
2017年オリヴィエ賞ノミネートリスト
ベストリバイバル作品
サウンドデザイン…アダム・コーク
主演男優賞…トム・ホランダー
助演男優賞…フレディー・フォックス
助演女優賞…クレア・フォスター
(たくさんノミネートはされたものの、残念ながら受賞ならず)
感想
私は以前の記事(英語の劇って難しいよね)にも書いた通り、この芝居の話の表面的な展開は理解したものの、文化的な引用にはおそらくほとんど思考がたどりついていない。
かろうじてダダイズムは美術・デザイン方面のムーブメントとしては知っていたが、(そりゃあ芸術的なムーブメントなのだから詩などもあるはずだわなぁ)と劇場で教養の足りなさを痛感した。
芝居という容れ物の中にきっちりと美しく成立するプロットがあって、余白を膨大な量のセリフと目配せで埋め尽くしたような作品だという印象を持った。
おそらく、英語がより堪能で芝居で描かれている物事の時代背景の知識がもっとあれば、この芝居はもっと何重にも楽しめるはずなのだ。
最初は細部まで聞き取ろうと必死だったのだが、序盤でそれを手放すことにした。
言葉の羅列を聴いているだけで音楽を聴いているかのようだった。
言葉の選び方も並び方もきれいだと思ったし、俳優たちの発音も発声も心地よかった。
言葉と音楽と照明と、頻繁に笑いで包まれる観客にかこまれて客席に座っていることが幸せだった。
トム・ホランダーのヘンリー・カーは期待どおりに言葉巧みでチャーミングである。
フレディ・フォックスは快活でよく響く声で劇場を揺らす。
舞台はバラバラになった本のページで埋め尽くされている。
言葉数が多く、作家と思想家とたくさんの書きものが登場するこの芝居にこの上なくぴったりだと思った。
芝居の最後の最後になって、観客は今まで観ていたものが史実ではなく、実は妄想か夢物語であると教えられる。
それの何が問題であろう。
最初から何となく知っていたのだ、このように会話と感情と歴史と文化的目配せが美しく絡み合う時間が劇場の中にしか存在しないことは。そして、この空間と離れなければならないときに後ろ髪を引かれる切ない気持ちになることも。
*千秋楽公演は記録映像を収録し、V&Aの舞台映像アーカイブに保管されるとの貼り紙あり。
