ロイヤル・コート・シアターの配信でCyprus Avenueを鑑賞。配信期間:2020/3/27-5/31
作:David Ireland 演出:Vicky Featherstone 美術:Lizzie Clachan 出演:Stephen Rae他
初演はロイヤル・コート・シアターで2016年。ニューヨークでも上演され、2019年に再びロイヤル・コートで再演された。映像は再演時のもので、映像化にあたり、新たに短いロケ映像が数カ所挿入されている。1幕、95分程度。
得意ではない人には要注意だが、オススメ。すでに日本語圏のSNSでは比較されているように、私もロイヤル・コート・シアターで初演されたHangmen(マーティン・マクドナー、2015年初演)を思い出した。
ベルファストに暮らす高齢のユニオニストが、孫の顔を見た瞬間をきっかけに、アイデンティティの不安を強く感じ妄想に捉われはじめ、家族を巻き込み混乱に陥っていく。こう言ってはなんだが、ものすごく楽しく鑑賞した。スティーヴン・レイが真面目な顔をして差別的な言動をくりかえすのがとてもおかしい。「赤毛のやつ」なんて100年前の政治プロパガンダだと思っていたものが、いま実際に声に出して糾弾されているなんて冗談のようだ。差別も狂気もパターナリズムも笑い飛ばしていいことでは無いが、初演時の2016年はBREXIT投票前でイギリス全体が揺れており、一人一人の国民意識が強く問われていた時期だったからこそ、よりスリリングで笑えるのではないだろうか。さらに、危険な発言を繰り返す主人公をしばらく笑って見ていられたからこそ、結末の後味の悪さもより際立つ。
最後の暴力シーンはある程度予測できたことだが、ここまで凄惨だと劇場ではかなりつらく感じただろう。暴力シーンは演劇の録画でうまく迫力が伝わらない要素の一つだ。同じ空間、同じ瞬間を共有している観客たちだけにダイレクトに共有される痛みの生々しさがあるのも、画面越しだとその効果が半減するのもしょうがないだろう。あえて不快そうなリアクションをする観客を画面に映しているのは、その雰囲気を少しでも伝わるように工夫したものかもしれない。