ミロ・ラウ(IIPM) + CAMPO 『5つのやさしい小品』

ミロ・ラウ(IIPM) + CAMPO『5つのやさしい小品』(あいちトリエンナーレ2019 愛知県芸術劇場小ホール)

2019/8/4

アフタートーク:ぺーテル・セイナーフ(俳優/演出補)、相馬千秋(あいちトリエンナーレ2019 パフォーミングアーツキュレーター)

概要

90年代にベルギーを震撼させた、マルク・デュトルーによる少女監禁殺害事件。6人の少女が誘拐され、4人が殺害された。これを10歳〜ローティーンくらいの子供7人が再現する演劇である。アフタートークによれば、子供達による大人向けの演劇を製作するという前提でCAMPOがミロ・ラウに依頼したところ、マルク・デュトルー事件を題材にしたいという返事だったらしい。初演は2016年。

子供たちのオーディションの場面から舞台は始まり、事件の関係者や被害者の言葉をひとつづつ子供たちが再現する形で事件の部分部分が描かれていく。舞台背後にはスクリーンがあり、カメラを用いて画面に演技をする子供達の顔のアップが同時に映し出される。あるいは大人の俳優による演技がスクリーンに映し出され、子供達はそれを手本として真似て演じていることがわかる。また、舞台上には実際に演出補でもある大人のペーテル・セイナーフがおり、俳優兼演出家として子供達を指導・誘導している。

舞台上では事件に関わる証言の再現がされるが、さらに、デュトルーが子供たちを使いコントロールしていたという大人と子供の力関係が、大人の演出家と子供の俳優という力関係でも再現されている。また、大人の観客のために子供達が使われているということも指摘される。模倣と演技と感情の関係にゆさぶりをかける、異化効果が存分に使用されている。

感想

結論から言うと、この演目はあまり私の心には響かなかった。

枠組みはわかる、唯一無二の舞台であると思うし、取り組みは評価したい。

子供達はかわいらしく、模倣の演技でハッとさせられる素晴らしい瞬間も多かった。

ただ、上記のさまざまな文脈を一旦忘れても、この舞台が楽しめるのか?と考えてみると、仕上がりが未熟に感じられ、最大限の評価はできないと思ってしまった。

構成がゆるめで冗長に感じられる時間も長く、また子供たちの模倣はプロの俳優と比べれば当然精度は低い。構造の可視化による異化効果が効いているので、演技に同化できる時間がほとんどなかった。なぜ大人たちの演技が映像で流れている中、手前の子供達が再現するところを二重に見ないといけないのかも不可解であった。(アフタートークではそこまで話が及ばなかった)

つまり、そういう仕組みの劇だから、そういう事件の背景があるから、ということはわかるが、それ以上の何かをパフォーマンスから汲み取れなかったのだ。

ひとつ私がしまったなと思ったのは、事件のあらましを予習しておかなかったことである。当然、初演時に想定されていた観客は地元で起きたデュトルー事件のことを承知しており、その上でこの芝居を見るのだから、初めてこの事件を知った私とでは、読み取れる情報量や心象が異なるだろう。NT『ロンドン・ロード』で始めてイプスウィッチの売春婦連続殺人事件を知った日本人が「歌わずに説明してほしい」という感想を持つようなものではないか。しかも、フレミッシュ語の上演だと言葉使いや調子の面白み、アドリブも拾いきれない。

カーテンコールの子供達のはつらつとした様子を見ると、親切な観客ではない自分が申し訳なくなった。

[追記 2019.8.5]

背後に映像があり、それを舞台上の生身の俳優がなぞるという演出は、昨年見たウースターグループの『タウンホール事件』を彷彿とさせた。

ウースターグループの場合は、スクリーンに流れるのは実際のドキュメンタリー映像であり、俳優たちは実在の人物にかなり見た目や仕草を似せて演技をしている。舞台上で再構築される生々しいドキュメンタリーのような世界観を見るのが面白かった記憶がある。またそこには実験的なプロジェクトを完遂するプロの仕事があった。

『5つのやさしい小品』の場合は、背後の映像は大人の俳優によるドキュメンタリー風の簡素なロケ映像である。ウースターグループのような「本物」の映像ではない。その間は同じ脚本を大人と子供が同時に演じているという状況になるが、どうやら子供たちは大人の演技の真似をしているように思われる。

子供たちは、時に感心するくらい映像とそっくりの動きも見せるが、細部までタイミングや動きを合わせるような厳密な再現にはなっておらず、むしろその「大人がする演技」と「子供がやる真似」の差が強調されるような効果があったように思う。

ここで子供たちは、モノマネをうまくやる楽しいゲームを行っている。その構造自体を見せたいのは分かるが、同時に、どうしてもモノマネでしかないものとそこまで真実味のない大人の演技とを両方見せられてもなあ、というやや冷めた気分になってしまった。

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