ナショナル・シアター・ライブ『オーディエンス』の資料を勝手に作ったはなし

こちらは、Lilyさん企画の、ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)が日本に上陸して10周年を記念した非公式ファンイベント「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)アドベント」22日目の記事です。

アドベント企画の概要は下記のリンクよりご確認ください。皆さんがNTLiveの思い出を語っておられるのを読んで、参加させてもらうことにしました。

https://adventar.org/calendars/8757

初めましての方はこんにちは、annnaです。元々はイギリスドラマやイギリスのミュージカルが好きだったのですが、2015年あたりからストレートプレイも見に行くようになり、最近はそちらの比率のほうが多くなりました。この10年の間は、ロンドンに住んで舞台に通った時期もありますが、基本的には日本在住で、たまに観劇旅行に行けるのを楽しみにしています。ハドリー・フレイザーとジェイミー・パーカーが好きです。

NTLiveとの思い出

さて、私はナショナル・シアター・ライブを初年度から今まで、サボりサボり観に行っています。初年度は全て見に行ったけれど、10年の間に最寄りの映画館での上映がなくなったり、引っ越したり、また違う映画館で上映されるようになったり、色んな思い出がたくさん…あるはずなのですが、いろんなことを忘れてしまっています。何とかブログを書けそうなのは『オーディエンス』の資料を作った話かもしれません。1

2014年6月に『オーディエンス』が日本全国の映画館で上映されたのにあわせて、私はなぜか自主的に、ファンとして勝手に、鑑賞の助けになりそうな情報をまとめた予習ノートを作ってTwitterにアップロードしていました。

資料のノートは3ページ、予習ノート①最低限の予備知識編、②歴史のお勉強編、そして復習ノート ちょこっと調べたことをまとめました編、です。

the audienceの予習ノート1
The Audienceの予習ノート2
The Audienceの復習ノート

なぜそういうことをしたかというと、主に3つの理由があります。

1、字幕問題

2、集客が気がかり

3、まだプログラムがなかった

1、字幕問題

2014年に上映が開始したナショナル・シアター・ライブは、第一弾が『フランケンシュタイン』、第二弾が『コリオレイナス』、第三弾が『オーディエンス』でした。

『フランケンシュタイン』でも字幕に誤字脱字がありましたが、『コリオレイナス』の字幕は、間違いがかなり多かったです。

例えば、

  • 愚昧→愚妹
  • 武勇→武男
  • 見る→目る

などなど、数多くのびっくりおもしろ間違いで、鑑賞中に集中力が削がれるほどでした。

これは…きっと、あれだ!NTLiveのスタッフが「やっておいてね」とか言われて、『日英対訳コリオレイナス』とかをイギリスのどこかの図書館から持ってきてスキャンして、スタッフ全員日本語わからないからOCRの文字認識機能が間違っていることも気が付かず、ネイティブチェックもせず、字幕データを入力して日本に送ってしまったに違いない!(知らんけど)2

『コリオレイナス』がこれなら、『オーディエンス』も間違いばかりかもしれない。それでは、上映されてもきちんと芝居を理解できるかわからない。じゃあ戯曲を読んでおかねばならない!ということで、ネットで戯曲を購入し、The Audience (Peter Morgan, 2013)を読み始めました。3

2、集客が気がかり

The Audienceは今まで読んだ戯曲の中でもびっくりするくらい読みやすくて面白くて、上映が楽しみになりました。ただ、英国王室のこともイギリス政治も歴史も詳しくないので、「これ誰?」「これ何のこと?」と、その都度ネットで検索しながら読むことになりました。オーディエンスというのは英国王と首相が毎週行う非公開の謁見のことなのですが、そんなことが行われていることも戯曲を読んで初めて知りました。

しかし、よく考えると、私も知らないことは他の日本の人も知らないのでは…この調べたことは他の人にも教えてあげようかな…そうすれば、「難しいかも」と思って敬遠する人が減って、気軽に映画館に行ってもらえるかも…

というのも、当時、私やイギリス演劇好きの友人たちは、この上映の集客をとても気にしていました。

その大きな要因は、同年2014年1月・2月に開始したRSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)「ライブ・フロム・ストラトフォード・アポン・エイボン」の日本上映が早々に途絶えそうだったからです。こちらも、イギリスの舞台映像を映画館で鑑賞できるという、ナショナル・シアター・ライブと同形態のもので、第1作『リチャード二世』はデイビッド・テナントが主演。イギリスでは大人気の舞台でしたが、2014年の日本では彼の人気はそこまでではなく、おそらく動員があまり良くありませんでした。『リチャード二世』が第1作と銘打っていたけど多分第2作はもう来ない。なぜなら映画館がガラガラだったから…!シビアな世界なんだわ…!4

そんななか始まったナショナル・シアター・ライブは、初年度から太っ腹に6作品を上映する計画でした。全ての作品が楽しみだったので、私は観に行く気満々でしたが、私だけではダメなんですよ!他の人にも観てもらわないと!!!そうじゃないと次に繋がらないんですよ!!!

さっきも書いたように、第一弾『フランケンシュタイン』、第二弾『コリオレイナス』は、それぞれベネディクト・カンバーバッチ、トム・ヒドルストンの人気のために、映画館は連日満員でした。しかし、第三弾の『オーディエンス』は、ヘレン・ミレン主演とはいえ、日本の観客が彼女目当てに客席を埋めるとは思えませんでした。しかし、集客は絶対に落としてはならない!!!なぜなら今年収益をある程度あげて来年も事業を続けてもらい、新しいNT作品を上映してもらいたいからだ!!!

それならとりあえず敷居を下げるぞ!!!という感じで、とりあえずSNSに情報をあげることを決心します。

3、まだプログラムがなかった

今になって思うと、ただのファンで素人の私がわざわざ芝居の概要をまとめたりしなくても良いのでは?という気もするのですが、当時はナショナル・シアター・ライブの映画プログラムがまだ発行されていませんでした5。日本語の情報は公式HPとSNSだけ、しかも、本国側の制約が厳しく、HPにもあんまり勝手に情報を載せてはいけないのだと聞いた気がします。

また、『コリオレイナス』で初めて舞台を見た映画ファンの感想で「やっぱり私にはわからなかった」というものを見かけたときに、「ああ、もっと分かりやすくて面白いものもあるのに…」と勝手にやきもきもしていました。

NTLive上映自体の知名度もまだまだだったので、とりあえずSNSで親しみやすく情報発信をするのは効果があるだろうと思いました。

資料制作にはデザインソフトを使って、歴代首相の年表や王室メンバーなどの情報をまとめました。私がこう理解した、ということを記載しているので、映画『ビリー・エリオット』で描かれる時代がこの頃、なんて情報も書き込んでいます。もちろん見る人が見れば間違いもある可能性が大きいです。ヘレン・ミレンが若い頃から現在までの女王を演じる以外にも、俳優たちが歴代首相に扮して出てくるようなので、その姿も掲載した方が良いだろうと思いつつ、舞台写真は難しいだろうから、画像は描かれる本人のWikipediaから、権利が問題なさそうなものを使わせてもらいました。

上映開始の2日ほど前に、年表を掲載した予習ノート2枚をTwitterにあげました。数日後にナショナル・シアター・ライブを観に行き、追加で年表に入りきらなかったことをまとめた復習ノートを制作しました。その後もしばらく、再上映のたびにSNSにこの3枚の資料をアップロードしたと思います。

NTLive上映と生の舞台

実際には、『オーディエンス』の字幕は新たにきちんと翻訳されたようで、上映時に特に問題は感じませんでした。ということで、字幕の不備による問題は杞憂でした。良かった〜!

友人たちが私の投稿した資料を好意的に拡散してくれたので、そこそこの方には見ていただけたようです。わざわざSNSでお礼を伝えてくれる方もおられましたし、実際に印刷して映画館に持って行ってくれた方もおられたようで、やった甲斐がありました。

集客に関しても心配は杞憂で、前二作の加熱っぷりに比べれば落ち着くものの、関東圏は結構賑わっていたと聞きました。作品自体の評判はかなり良くて、その後も再上映される人気ラインナップの一つとなりました。10周年イベントでベストに挙げられている方もおられましたね。

すでに戯曲を読んでいて展開はわかっていても、俳優が演じて見せる舞台映像はまた全く違う体験で、とても面白かったです(メージャー可愛い!)。その後、私は2015年のウエストエンドで、The Audience再演(主演はクリスティン・スコット=トーマス)を観に行くことができました。その時の感想は、旧ブログに書いています。また帰国した後、2017年のナショナル・シアター・ライブ再上映も観に行っています。大好きですね。

ナショナル・シアター・ライブの10年

2014年も、その後も、しばらくは「来年もナショナル・シアター・ライブはやってくれるだろうか」と心配していましたが、気がつけば10周年を迎えていて、ここ数年は「きっと来年もやってくれるだろう」というすっかり安心しきった気持ちに変化していることに気がつきました(安心しすぎてはいけないのに…)。現在は上映の全てを見にいけているわけではありませんが、コロナ禍を経てイギリスに行く機会が減っているなか、映画館で、日本語字幕付きで、NTの舞台が鑑賞できることにますますありがたみを感じています。

願わくば、本国のNTとNTlive、日本のナショナル・シアター・ライブが、あとNT at homeも、末長く続きますように!私も年内に、NTLiveの見た作品リストをまとめたいと思います。

明日のアドベントの担当は🍞HNかんがえちゅう🍞さん、プレゼント・ラフターの思い出です。

https://adventar.org/calendars/8757


  1. 『エンジェルス・イン・アメリカ Part 1』のNTLiveの客席にいたはなし、と迷いました ↩︎
  2. 今は日本で字幕を制作しているけれど、2014年当時はナショナル・シアター側が日本語字幕をつけた映像を制作していました ↩︎
  3. 先にTwitterのお友達がそういう行動を起こしていたので真似しました ↩︎
  4. 実際に日本ではこの1度の上映で終わってしまいました。イギリス本国では、「ライブ・フロム・ストラトフォード・アポン・エイボン」は続いていて、2013年から2019年までに少なくとも25作品の映画館上映がされたようです。現在は配信に移行しています。 ↩︎
  5. はづき真里さんのNTLiveアドベントの記事で書かれていたのですが、2014年8月にその年の作品を1冊にまとめたプログラムが販売されたとのこと。そう言われれば、そうだった気がする…(はづき真里さんの記事 https://august16th.hatenablog.com/entry/2023/12/08/000000、プログラム販売ページ*Sold out https://movieprogram.official.ec/items/7506751↩︎

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