ナショナル・シアター・ライブ ワーニャ

Vanya

出演:Andrew Scott 脚本:Simon Stephens 演出:Sam Yates

上演時間は2時間弱の1幕もの。Duke of York’s Theatreで2023年秋に撮影。


本作はアントン・チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を一人芝居にしたもの。今までのNTLiveでは、フリーバッグとプライマ・フェイシィも一人芝居だった。これらはおおよそ一人一役ながら、相手の言動も伺えるという作りだったのに対し、今回はアンドリュー・スコットが一人八役で登場人物全員を演じ分けるという作りで、やや趣が異なる。

上映を見て、まずefficientな芝居だなという印象を持った。セットはひとつで舞台転換はなし、俳優もひとり、ついでに一幕で終わり。

とくに、俳優を一人にしたことで、舞台上のエネルギーのようなものが分散しないで済むということを強く感じた。普通のチェーホフなら、セリフはなくともしばらく舞台上にいる登場人物がいるものだが、その存在感を丸ごと排除できてしまう。俳優は、セリフのある者だけを演じ続けることができ、脇役たちは気づかないうちに登場し、気がつかないうちにいなくなっている。俳優は一人で全ての登場人物を演じ切り、観客はこの狭い舞台上の、ただ一人の俳優にだけ注目していられる。

わざわざ移動して異なる人物を示すことも多いけれど、その場にいたままで演じられることもあり、会話する複数人の距離がゼロになるのが見ていて面白かった。

ワーニャ伯父さんをイギリスの現代的な世界へ翻案し、一人芝居に書き換えたサイモン・スティーブンスの戯曲も、演じたアンドリュー・スコットも、上手くやっていたと思う。ちゃんと観ていれば分かりにくくはない。

作り込まないセットデザイン(Rosanna Vize)が、一人芝居の見立てをより引き立てるように思った。カーテンだけではなく、照明もスコットが最後まで操作し切る演出にしても面白かったんじゃないかと思うが、あまりにも異化効果がすぎるだろうか。暗転時にボーっと不可思議な音が聞こえるサウンドデザイン(Dan Balfour)も、イギリスの芝居らしい雰囲気。

少し残念なのは、私が最後には一人芝居にやや飽きてしまったことだ。映画館の画面に映るのはくたびれたアンドリュー・スコットだけで視覚の変化に乏しいし、話も知っているので、もう少し短くしてほしくなった。また字幕はどうしても、聴こえるセリフに比べてやや鋭さが薄まる。これを劇場の一番良い席で見るなら180ポンド(三万円越え)だったかと思うと、オーバーチャージの感も強い。

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