Don’t. Make. Tea.

2022/11/26

エジンバラのTraverse Theatreの配信で、スコットランドに拠点を置く劇団Birds of Paradise Theatre CompanyのDon’t. Make. Tea.を視聴。
イギリスの障害者手当ての更新手続きはかなり評判が悪くて、受給者の自尊心を傷つける嫌なものだ、という話を聞いたことがある。その評価方法が新しくなった近未来を舞台にしたダークコメディ。

作:Rob Drummond 演出:Robert Softley Gale [公式ホームページ]


長らく障害者手当を受け取ってきた主人公のクリスは、新しい評価システムが導入されるとその手当から外れてしまう。訪問面談にやってくる職員ラルフにたいして、手当を受けるべき状況だとなんとか説得しようとするが…というワンシチュエーションもの。

話の流れはかなりシンプルで、結末まで自然に展開するダークコメディ。組み立てはしっかり出来ているが、本筋の話だけ見ればありがち。ペーパーレスの加点式評価システムが従来の評価をひっくり返してしまうのも、SFとしてはそこまで目新しいものではない。

しかしそこに、近未来という設定を活かし、AI機器による字幕表示とテレビ手話による通訳が入る。おかげでアクセシブルな芝居になっていると同時に、この障害者を含む俳優から成る劇団Birds of Paradiseによる芝居を何倍も面白くする、とてもクレバーな仕掛けとなっている。

コーヒーテーブルに置かれたAI機器Ableは、部屋で起こる全ての出来事を観察し、口述し、画面上で全ての会話を字幕表示する。全ての発言の手話通訳を行うテレビの中の女性は、一人暮らしの主人公にとっては寂しさを紛らわせてくれる存在である。前半はこれらの機器による合いの手が会話のスパイスになるが、後半には彼らが、クリスの幻覚として、人間の肉体を持って舞台に現れる。AIたちはもっと自由自在に会話に参加するようになるので、横槍の数が多くなりドタバタ感が増して、風刺コメディとしては数段面白くなる。

最後の主人公の決断の直後に流れるポップスのチョイスの落差、このブラックジョーク具合が全体を貫いている。ときに大笑いをさせながら、「障害者をどう扱うか」を持て余す現状の社会設計を痛烈に見せる、好ましいサタイアだった。休憩20分を入れて全部で2時間くらいにおさめたボリュームもちょうど良い。

【最後にネタバレ】

ラルフを殺したと思い込んで証拠隠滅を図る算段は、Ableが全部見ていて記録も通信しているなら、すぐバレるのでは?というところだけ気になったが、生きてたのでまあいっか!

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