Next to Normal

Next to Normal (Donmar Warehouse)

8/26, 8/28/2023

作曲:Tom Kitt 脚本、作詞:Brian Yorkey 演出:Michael Longhurst 美術:Chloe Bamford 照明:Lee Curran 音楽監修:Nigel Lilley 音響:Tony Gayle 音楽監督:Nick Barstow

出演:Trevor Dion Nicholas, Caissie Levy, Jack Ofrecio, Jamie Parker, Jack Wolfe, Eleanor Worthington-Cox


2008年にオフブロードウェイで初演され、のちにブロードウェイで上演、ピュリッツァー賞を受賞したミュージカルNext to Normalが15年越しにイギリス初演。あらすじを調べずに見て、色々な展開に劇場で心底驚くことができたので、この感想でもできるだけネタバレをしないように書こうと思う。


バンドを含む出演者が全員上手く隙がないことと、セットの設計、落ち着いたトーンを中心にえんじ色をキーカラーにした美術の色合わせが美しいところが好ましかった。

セットは2階建で、1階は家庭のキッチン。回転盆の上には可動式アイランドキッチンがあり、正面の壁には冷蔵庫とカウンターがある。やや右手に2階につながる階段があり、踊り場の壁を開けるとワードローブがある。2階部分は4つのボックスが連なっており、6人のバンドがいる。この4つのボックスはスクリーンが降りて人影がうっすらとしか見えないようにすることもでき、映像のプロジェクションもできる。バンドの手前には狭いスペースがあるので、そこをキャストが移動したり、そこで演技する場合もある。キャストの出入りは、2階のボックスの左右か、1階客席横の通路のみで、1階左右の袖のスペースは全く無い。

ドンマーは狭い劇場なので、公演写真を見た時はどうなっているのかと思っていたが、回転盆とカウンターの移動、2階のちょっとしたスペースと階段を活用し、コンパクトな空間で多様なシーンをうまく表現できていた。

劇場で出会ったファンによれば、ブロードウェイでは3階建の9部屋あるセットで、それぞれの部屋で演技が進行する演出だったそう。その時は盆はなかったらしい。

俳優たちは全員好演していた。母親ダイアナ役のケイシー・レヴィは、どの曲も素晴らしくドラマチックに歌い上げるし、医師役のトレヴァー・ディオン・ニコラスもカリスマたっぷりで本当に素晴らしい。曲中の豹変ぶりが大きいほど笑えるので、もったいないくらい適役だ。息子ゲイブ役のジャック・ウォルフは、日本の少女漫画に出てきそうな目がくりくりした若者で、飄々とした少年ぽさがある。歌唱には抑揚が効いていて、I’m Aliveにもパンチがあって魅力的。ジャック・オフレシオも歌もうまいし、なにより彼のヘンリーに愛嬌がある。ウエストエンドのオリジナルマチルダの一人であるエレノア・ワージントン・コックスが演じる娘ナタリーの皮肉っぽさ、諦観した感じも良いし、ハイトーンにズバッと音が当たる歌唱が気持ちが良い。基本的には「歌い手として素晴らしい」ということを感じる5人に対して、父親ダン役のジェイミー・パーカー(ちなみに彼のために2回見ることにした)は歌手としてはやや弱いのだが、声を使った演技という意味では抜きん出ていたと思う。会話と歌との両方で、声色からキャラクターの心情が滲みでてくるので、例えば、とりつくろっているけど内心悲しんでいるのだな、ということも声から感じとることができる。また、最終的に振り返ると、彼がこのプロダクション全体にのしかかる悲しみの表現の大部分を担っている。

ただ残念ながら、この戯曲はあまり褒めることはできない。特に精神疾患の劇中での対処の仕方も、演劇における表現としても、それを象徴する人物の表象に関しても、これでいいのか?不適切ではないか?という疑問が渦まいて仕方がない。おなじくマイケル・ロングハーストが演出したThe Sonの方が、ドラマの作劇としては自然だったなと鑑賞中に考えこんでしまった。2幕は娘を中心にキャラクターの動かし方が疑問で、2幕後半から音楽も劇も着地しそうでしないことが続いて困惑した。

音楽に関しては、サラ・クロンプトンのレビューにあった「もっと曲が少なかったらなあ」の意味がよく理解できた。とにかく曲が続きすぎるのだ。最初のキャラクターがロック調の辛い心情を歌い上げたと思ったら、今度は別のキャラクターが登場して会話が始まると思いきや、新たなイントロが流れ出しまた辛い心情をロック調に歌い上げる、ということが続き、「またか!」と思ってしまった。伝統的なミュージカルならお決まりのジャンルや流れがあるが、本作は音楽的にはずっとハイテンションで、流れが予想できないため、鑑賞中に劇の起承転結のどこにいるのかが把握しづらい。2度目の鑑賞で、ようやく一幕のこの曲が後半のこの曲に呼応しているのだな、ということがわかりはじめて、ぐっと鑑賞しやすくなった。またそうすると、一曲一曲を聴き込むことができ、それぞれの曲には面白い展開も和音もあることに気がつけるようになった。

今回のプロダクションは、この劇場でやるという条件ではこれ以上ないくらいうまくできていたと思う。戯曲の気になった部分についての話が長くなったが、それぞれの曲とキャラクターに強い愛着を持つファンが多いのもわかる。I’m Aliveのように単独で聞いても面白い曲はいくつもあったので、また他のリバイバルがあれば、どのような解釈で歌われるのかも含めて見てみたい。

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