最近見た舞台配信2

もう配信が終わってしまったものを中心に簡単にメモ。

最近見た舞台配信:CATS / It’s True It’s True It’s True / A Doll’s House / Barber Shop Chronicle / The Encounter / Sea Wall / Midnight Your Time

Cats The Musical

The Shows Must Go Onの配信で視聴。アンドリュー・ロイド・ウェバーによる解説動画を同時に再生すると解説付きでミュージカルを観ることができる趣向になっていた。本当に楽しそうにしているのが良い。現在は配信終了。

元々は1998年にVHSで販売された映像で、ファンの間では「ビデオ版」と呼ばれているものである。私はDVDを所有していて覚えるほど見ているので、今回は今年1月の映画公開以来の視聴となったが、やはりこちらのビデオ版の方が好きだなということを確認することになった。

映画の感想にも似たようなことを書いたが、ビデオ版の方が、音楽の流れ、歌唱方法、ダンスの撮影方法に関して、ミュージカル鑑賞時の感覚を映像に収めることに成功しているため、ファンとしては見ていて楽しい。

猫の造形も、頭部を球形にし大きく見せるヘッドピースをつけ、手首と足首と肩関節全体にモコモコとした素材を加えることで、人間のシルエットから遠ざけ、猫っぽさを醸し出そうとしていることがわかる。(私が一番好きな猫の歌は公式チャンネルにアップされたのでそちらで確認可能)

この配信に続いて、手持ちのDVDの特典映像で、製作の裏側とオリジナル製作陣のインタビューを確認した。製作過程を考慮すると、Catsはむしろ、コンテンポラリーダンスでT.S.エリオットの詩を表現するダンスミュージカルと捉えるべきだろう。

演出のトレバー・ナンとデザインのジョン・ネイピアは、様々な判断や工夫でミュージカルを完成させていった過程を語っている。例えば、劇中には人間を出さないようにした判断であるとか、猫のキャラクター、セットのアイデア等について、「こういう理由があるからこうしているのである」というポイント解説になっていて、改めて感心した。またオリジナルミュージカルとビデオ版の映像を好んで見ている私からすれば、これらのポイントをいくつも度外視して制作された映画が好みの仕上がりになっていないのは、当然のことだったなあということがはっきりと分かった。

It’s True It’s True It’s True

Breach Theatreのプロダクションをバービカンシアターが配信。現在は配信終了。

17世紀の女性の画家アルテミジア・ジェンティレスキ(1593-1652)が被害者となったレイプ事件の1612年の訴訟記録を元にした芝居。ラテン語とイタリア語による記録の一部が今も残っており、それを英訳したものを元にしている。アルテミジア・ジェンティレスキは、『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』(ウフィツィ美術館所蔵)が有名だが、訴訟については知らなかったので、少し調べてから鑑賞した。

事件の流れや裁判での拷問のようなシーンなど、見ていてかなりつらい描写もあったが、大変面白かった。絵画の再現シーン(『スザンナと長老たち』)も演劇的で良い(アレッサンドロ・アローリの絵の解釈のところはすごく笑えた)。女性の俳優3人がジェンティレスキ、アゴスティーノ・タッシ、その他の証言者、裁判官、絵の中の人物などを演じており、芝居のコンパクトな規模も良かった。ただし、ポイントポイントでの音楽の選択がやや陳腐に感じ、最後の歌のシーンで求心力を失う感覚があったので、最後まで語りで進めても良かったように思う。

A Doll’s House

リリック・ハマースミスの配信を確認。現在は配信終了。

全編を見れていない上、『人形の家』を一度も見たことすらないのに、冒頭とラストシーンだけ見て妙に感激してしまった。イギリス領コルカタを舞台に、主人公をインド人、夫をイギリス人にした翻案とシンプルな舞台セットが非常に好ましいと思ったということだけメモ。

翻案脚本 Tanika Gupta、演出 Rachel O’Riordan、デザイン Lily Arnold。

Barber Shop Chronicle

ナショナルシアターの配信で鑑賞。現在は配信終了。

様々な土地の理髪店に集う男たちをコラージュのように描いていくのだが、つなぎの音楽が良い。そこまで明確に土地の違いがわかっているわけではないので、ここはロンドンだな、ここはロンドンじゃないところだな、くらいの理解で、会話と字幕に助けられながら鑑賞した。もともとのルーツとなる土地にとどまっている者、他の土地に移動してきて暮らしている者の思い、移民の世代ごとの考え方の違いなどが優しい視点で描かれる。

俳優がいくつも役を担当しているのだが、1回見ただけでは把握しきれず惜しくなった(配信終了ギリギリに鑑賞してしまって見直すチャンスがなかった)。

The Encounter

Compliciteによる配信を鑑賞。現在は配信終了。

すでに舞台で見ている作品の配信はスキップすることも多いが、バービカンで鑑賞したのは4年前と期間もあいたので久しぶりに見てみた。

録画は2016年のものだが、今回の配信のために最初と最後に追加されたサイモン・マクバーニーの語りによって、より愛らしい(lovelyな)プロダクションになっている。ヘッドホンを通して耳の近くで音がするとくすぐったくてしょうがなかった感覚が再び蘇り、笑い転げながら自室で鑑賞するのが楽しい。もちろん最初に劇場で見たときの衝撃と感動は非常に大きくそれを越えることはなかったが、今パソコン越しで見返しても十分に観客を魅了することができる演目だと感じた。

劇場では、私ひとりだけが舞台を見ていたかのような感覚と、周りの座席を埋める静まり返った観客の存在を同時に感じ取るという、二重性をフィナーレで強烈に感じたのだが、配信だと前者の感覚が強くなるかもしれない。

Sea Wall

サイモン・スティーブンス作、アンドリュー・スコット出演の一人芝居を配信で鑑賞。上演時間34分程度。現在は配信終了。

アンドリュー・スコットは、気負っていないように見せるナチュラルな演技がうまい。途中まで甘ったるいほどの幸せな展開が続くので、後に来るだろう、心をえぐられる出来事を思うとつい再生をやめたくなってしまった(そして実際にちょっと止めて心の準備をした)。

ネタバレだが、自分が発した「残酷な発言」を結局再現できないことについて、アンドリュー演じる登場人物の人間味が見えて良いのだが、劇としてその発言が明かされないままなのはちょっと消化不良な気もした。

Midnight Your Time

ドンマー・ウェアハウスによる配信を鑑賞。作Adam Brace、出演Diana Quick、演出Michael Longhurst。芝居自体は再演だが、ロックダウン中に撮影された。上演時間30分程度。現在は配信終了。

老齢の母親が娘に一方的に送るビデオメッセージだけで構成されている芝居。今強制的にオンラインでのやり取りをするしかない世界で再演されるのにふさわしく、またパソコン画面で見るのにもぴったりだった。

劇中の世界は2010年で、なぜインターネットで連絡をするかというと娘が外国にいるからである。しかも娘からの連絡が途切れているらしいという理由から、母親からのみのメッセージが続くという一人芝居になっている。

どうやらこの母が娘に決定的に避けられるようなことをしてしまったらしいことは推測できるのだが、ダイアナ・クイック演じる、孤独やフラストレーションを感じ悪態をつきながらもなるべく気分を明るく保とうとする母親に、心を寄せずにはいられない。どうしようもない孤独やさみしさ、老いとリタイア後の生きがいなどについて思いを馳せさせながら、最後は柔らかく物語をとじる手腕が素晴らしい。

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