木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』(ロームシアター京都 サウスホール) 

2019/2/11

作:菅専助・若竹笛躬
監修・補綴・上演台本:木ノ下裕一
上演台本・演出・音楽:糸井幸之介[FUKAIPRODUCE羽衣]
音楽監修:manzo
振付:北尾亘
美術:島次郎、角浜有香
照明:吉本有輝子
衣装:大野知英
出演:内田慈、田川隼嗣、土居志央梨、大石将弘、金子岳憲、伊東沙保、西田夏奈子、武谷公雄、石田迪子、飛田大輔、山森大輔

感想

歌舞伎だがミュージカルだ、と聞いていたが、蓋を開けてみたら本当に歌舞伎だがミュージカルだった。

全体の構造がかなりいびつであることが印象に残る演目だった。

アップデートされた歌舞伎

物語は浄瑠璃が原作で、それを今の観客に向けてアレンジ、構成し直したもの。
現代の台詞劇のようだが、音楽とダンスなどミュージカル風の手法を要所要所で用いている。
登場人物の衣装やボディランゲージは現代的だ。ミュージカル風のところでは、音楽はポップス風で言葉は口語調。地の台詞になると歌舞伎風だが、口語文も使い分ける。セリフは全体的に口語調で発せられ、BGMにループミュージックがかかる。しかし緊張が高まったところで急に振る舞いが変わり歌舞伎の見得を切るなど、スタイルによって緩急をつけるのが特徴的だ。

時間や場所も異なる様々な場面をパッチワークのように組み合わせて、ストーリーの全体像を構成していく。前半は短い場面が続くが、演技と転換の切り替えが分かりやすいので、混乱もなく、見ていて引き込まれる。
今の観客に提示する歌舞伎のアレンジとして、非常に面白い形態だと思うし、エンターテイニングな舞台だった。

予想外の構造

私が話の構造がいびつだと感じたのは、原作にしているような歌舞伎や浄瑠璃、もしくは現代演劇を見慣れず、古風な西洋演劇のセオリーに親しんでいるからかもしれない。
原作の「摂州合邦辻」を知らず、手渡されたパンフレットのあらすじだけ読んでいたので、それにも誘導された。
最初に「この人が主役でこういう話かな」と予想しながら見ていると、後半のシークエンスが長い。「もしかしてこっちが主題なのか」と思うと、最後に物語の輪が閉じると見せかけてそれを裏切る展開に入る。そこでも時間を使い、最後の最後のオチが全くの予想外の伏線で終わる。
振り返ってみると、着地が予想からかなり外れたところで、新鮮なバランスで構成された物語だった。

2時間10分と、一幕で上演するにはやや長く、後半は集中力がきれそうになり、展開が冗長に感じる部分もあった。冒頭の場面に戻ってから、本当に終わるまでもやや長いと感じる。後半がここまでボリュームがあるなら、前半を刈り込むなり、色々要素を足して二幕にするなり、が私には見慣れた構造だ

見た目の良い舞台

良かったのは、舞台全体のルックスである。紺や黒と赤を基調とした衣装に身を包んだ11名の若々しいキャスト、大道具は舞台に立つ木材のみ。
最初は木材がかなり抽象的な空間を構成しているように見えるが、組み替えることで、田舎道や家屋などかなり具体的なセットに見えてくる。
大道具のそばに背景的に役者を使い、役者の配置の構図と抽象的な振り付けが、綺麗にバランスがとれている。
難点は歌と踊りで、上手い人もいたが、時に学芸会のようでもあった。基礎の訓練を受けている役者が、やはり日本には少ないのだろう。歌詞の乗せ方も難しいのだろうとは思ったが、斉唱になると歌詞が聞き取りづらく、特に最初の歌は内容がよくわからなかった。

ただ、役者全体は熱演が心地よく、好印象を持った。玉手御前役の内田慈と、おとく役の西田夏奈子は、かなり芸達者なところを見せる。


最後にネタバレを書く。直接は書かないがオチについての話なので、本当にネタバレだ。

本当にネタバレですからね!

さて、上記のようにとても楽しんだ舞台だった。オススメもしたいし次回も見たい。しかし骨子の物語については、全くひどい話だと思った。
元は歌舞伎の演目なので今と道理が異なることは百も承知だが、私は21世紀の人間であるため、玉手御前の都合の良さが気になってしまう。両親の気持ちを考えると、良い身分の者だけくつろいでいる場合じゃないだろう、と遣る方無い気持ちになった。
metooの時代に見たい話かと言われると全くNOだぜ!ジブリの『かぐや姫』持ってきな!というのが正直なところだ。

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