Hansard

Hansard (Lyttelton Theatre, National Theatre)

10/31/2019

作:Simon Woods 演出:Simon Godwin デザイン:Hildegard Bechtler 照明:Jackie Shemesh

出演:Lindsay Duncan, Alex Jennings

2008年に俳優業を引退し、作家に転身したサイモン・ウッズの劇作家としてのデビュー作である。デビュー作がいきなりナショナルシアターでかかり、出演はアレックス・ジェニングスとリンジー・ダンカンで、演出はサイモン・ゴドウィンで、チケットの値段はナショナルシアターでありながら90ポンドもする。

これがとびきりよくできた演目なら良いのだが、果たして…と思っていたら、正直なところやや物足りなかった。

本作はNTLiveで上映され、日本でも来年以降上映される可能性もあるため、ネタバレが気になる方は以降の感想はまた後ほど確認されるのが良いかもしれない。

ややバランスに欠けるがスイートなドラマ

舞台は1988年のオックスフォードシャーの住宅に、保守党の政治家である夫が帰ってきたところから始まる。妻はほとんどの時間をオックスフォードシャーで過ごしているが、夫は普段はロンドンまで働きに出ており、今回は旅行のために家を留守にしていた。

軽食や身支度の様子、小気味好い会話が喧嘩のようになったりならなかったりする様子を見ていれば、徐々に彼らがどのような時間を共にしてきたカップルなのかが見えてくる。夫はかなり保守的な性格で、妻は夫よりもリベラルな思想の持ち主である。夫の「芝居を観に行くやつらはまともな仕事していない」「まさかまたガーディアン読んでいるんじゃないだろうな?」などのセリフは笑えた。

もともと「アレックス・ジェニングスとリンジー・ダンカンの共演」を見たいという動機でチケットを購入していたし、実際に鑑賞したところで演技には文句はない。アレックス・ジェニングスは嫌われそうな役を演じているのに、どんな映像作品より10倍くらいチャーミングに見えるし、この二人がずっとしゃべり続けている会話劇という時点で、テキストはおおよそ何でも良い気もしてくる。

物語自体には感動があったし、演技や雰囲気もよかったのだが、前半の軽めのトーンのままスルリと終わってしまったのが残念だった。その要因は、マイケル・ビリントンもレビューで指摘していた構成のせいだろう。最後の最後まで決定打となるとある情報が隠されていたため、ラストの展開が唐突で前半が生きていない。むしろ「その話」がしたいのであれば最後の10分だけ見れば良いくらいで、それでは劇全体の90分が勿体無い。カップルの歴史に何かがあること自体を前半からある程度示唆できていれば、最後の展開でより大きな感動が生まれただろう。

全体的に会話文の筆致も心地よく、リベラルなシアターゴーアーのためのサタイアとしては楽しく(と言っていいものか)仕上がっているので、一見の価値はあると思う。舞台は1幕物でシーン転換はないが、郊外の住宅を再現したセットの作り込みが素晴らしい。が、やはり90分という短めの演目に90ポンドはなあ、とも思ってしまうのであった。

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